まず,本研究では各教科の学習を中心に実践を進める。学校生活において大部分を占める各教科の授業で実践を積み重ねることで,生徒に「基礎的・汎用的能力」の意識化を継続的に促すことができると考える。1年次の課題を踏まえ,学習面での振り返りが充実するような実践を行う。 具体的には,学校行事を中心として,自己理解を重要な視点として振り返りを積み重ね,次の取組へとつなぐことにより,生徒が自己理解を深め,学ぶ意欲を向上させることを主たるねらいとした。 1年次の研究構想図を,以下に図1-1として示す。 京都市の運用に沿い,キャリア・パスポートを学年初め及び学年末の2枚として位置付けた。学年初めに記述した自己理解に関わる内容や目標を,1年間の学びとともに学年末で振り返ることができるよう,学校行事において自己理解を大切な視点として振り返りシートに蓄積した。具体的には自己理解の内容として,自分の良い点や頑張ったところを記入する項目と,自分の課題や今後取り組んでいきたいことを記入する項目を設定した。 また,生徒の自己理解を深めるきっかけを引き出せるような,指導者からの言葉がけを例示したキャリア・カウンセリングシートを作成し,指導者への手だてとした。こうした実践を積み重ね,学年末のキャリア・パスポートの取組を行ったところ,多くの生徒について,自己理解に関わる項目を積極的に書き進めたり,内容が詳しくなったりといった変容が見られた。また,その後に行ったアンケート(対象生徒は58名)を通して,8割以上の生徒が自己理解の深まり,そして学ぶ意欲の向上を実感していたことも明らかとなった。 以上のような成果があった反面,いくつかの課題も見えてきた。以下,2点に分けて整理する。 一つは,学校行事を中心とした実践であったため,振り返りをつなぐ対象とした学校行事のみで意欲の高まりが見られ,主たるねらいであった学ぶ意欲の向上が幅の広いものとならなかった点である。実際,学年初めのキャリア・パスポートに図1-1 1年次の研究構想図 中学校 キャリア教育 5 学習面の目標を記入していたが,学年末には学校行事に関わる内容しか振り返りの蓄積がなく,目標に対する振り返りができなかった生徒が数名見られた。学校行事以外にも生徒が目標を立てたり,成長を感じたりする機会があることを痛感した。 もう一つは,生徒が学ぶ意欲の向上を実感できたことはアンケートから分かったものの,キャリア教育を通して育む「基礎的・汎用的能力」との関連性を一部しか示しておらず,キャリア教育の実践としての詳細な分析を行うことができなかった点である。1年次の研究では,振り返りで生徒が成長を実感していれば,自己理解を深めることができたと判断する自己理解能力の視点のみであったため,キャリア教育に関わる実践によりどの能力を伸ばしたことで学ぶ意欲を向上させたのか,明らかにすることができなかったのである。 (2)本研究の方向性 第1節の内容及び1年次の研究から,本研究の方向性を次のように定める。 ○ 各教科の学習を中心として,キャリア教育 の視点を意識した授業を実践する。 ○ 指導者だけでなく,生徒にも「基礎的・汎 用的能力」の意識化を促す。 ○ 教科目標とともに「基礎的・汎用的能力」 も視点として,生徒が活動のプロセスに注目して振り返ることを重視する。それが成長の実感につながり,今後の取組に一層努力しようとする原動力となるような実践を目指す。 また,研究を通して生徒・指導者双方に「基礎的・汎用的能力」の意識化を図る。1年次の研究では,自己理解能力の視点だけでしか生徒の成長を見取ることができなかった。本研究を通して,生徒にとってはより多面的に成長を実感でき,指導者にとってはより多面的に生徒の姿を見取ることにつながるような機会となることを目指す。 目標達成に向けた活動のプロセスにおいて発揮79
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