最終稿【田中】
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(3)キャリア・パスポートの取組 キャリア教育を推進する際の振り返り教材として,本年度より導入されたものがキャリア・パスポートである。平成28年12月21日に中央教育審議会によって示された「幼稚園,小学校,中学校,高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改善及び必要な方策等について(答申)」の「教材や教育環境の充実」という項目に,キャリア・パスポートについて以下のような記述がある(15)。 キャリア・パスポートが,学びのプロセスを記述し振り返ることができるポートフォリオ的な教材であると説明されている。特に,「学びのプロセスを記述し振り返る」という,本稿で今までに述べてきた内容と結び付くキーワードが含まれていることが確認できる。そこで本研究では,キャリア・パスポートの取組を活用しつつ進めていく。 また,中学校学習指導要領解説 特別活動編では,キャリア・パスポートを活用する意義として「生徒にとっては自己理解を深めるためのものとなり,教師にとっては生徒理解を深めるためのものとなる」ことを挙げている(16)。生徒は,学びのプロセスを記述する中で成長を実感することで自己理解を深めることができ,その様子を見取ることで,指導者は生徒理解を深めることができる。 京都市では,キャリア・パスポートの名称を「生き方探究パスポート」として,今年度より取組が始まっている。本研究は京都市の運用に準じて進めるため,これ以降本稿で今年度の内容を示す部分は全て「生き方探究パスポート」と表記する。 生き方探究パスポートは,学年初めに実施される「わたし」と,学年末の「あゆみ」という2枚で構成されている。生き方探究パスポートは学年や校種をまたいで持ち上がり活用されるものであるが,本市では学年につき上記の2枚のみをファイルに綴じ,小学校から中学校,高等学校へと持ち上がることになっている。特に高等学校は今までの生き方探究パスポートが全て綴じられたファ78 教育課程全体で行うキャリア教育の中で,特別活動が中核的に果たす役割を明確にするため,小学校から高等学校までの特別活動をはじめとしたキャリア教育に関わる活動について,学びのプロセスを記述し振り返ることができるポートフォリオ的な教材(「キャリア・パスポート(仮称)」)を作成することが求められる。 中学校 キャリア教育 4 イルを受け取ることとなるが,枚数を精選することで,より積極的な活用を促すねらいがある。 生き方探究パスポートの取組を効果的にするためにも,学年初めから学年末の間に行われる活動の振り返りを記録としてまとめておくことが大切になる。そのような振り返りの充実及び蓄積こそが,この取組において最重要であり,生き方探究パスポートが,それぞれの学校で行われる様々な取組(今ある取組)をつないでくれるのである。 では,生き方探究パスポート「わたし」及び「あゆみ」において,どのような内容が大切にされているのだろうか。以下,3点に分けて整理する。 一つ目は,自己理解の深まりである。「わたし」には自分の持ち味等を記入する項目があり,自分を見つめる機会となる。そして「あゆみ」では1年を振り返り,残しておきたい出来事や場面を記述する項目があり,自分の成長を具体的にまとめられるようにすることが大切になる。 二つ目は,目標とそれに対する振り返りである。「わたし」において目標(なりたい自分)を設定し,「あゆみ」において,この1年どのような努力をしてきたか振り返ることが意図されている。 三つ目は,周りの大人からのコメントである。指導者や保護者等,周りの大人から肯定的な言葉をもらうことで,生徒はより成長を実感し,次の1年も一層成長できるように頑張ろうという前向きな姿勢が高まることが期待できる。 以上より,生き方探究パスポートの取組は,1年をサイクルとして目標設定とそれに対する振り返りを行う(繰り返す)ものであるといえる。目標達成に向けて努力する中で得た成長を記録として残しながら,自己理解を深め,更なる目標に向かっていく姿が目指されていると考えられる。 第2節 本研究で目指す生徒像について 本研究で目指す生徒像は「活動のプロセスに注目し,成長を実感する生徒」である。本節では,この生徒像に迫るための研究の方向性について述べる。そのために,まず1年次の研究を概観する。 (1)1年次の研究から 1年次は,中学校におけるキャリア・パスポートの効果的な活用を目指して研究を行った。キャリア教育を通して育む「基礎的・汎用的能力」の中で,特に自己理解能力に注目し,実践を進めた。

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