最終稿【田中】
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ねらうべきは「教科の目標」だけ。当該単元の内容 「基礎的・汎用的能力」である四つの能力は相互に関連し合っており,明確な区別ができるわけではないが,上に挙げた各能力について,①はキャリアプランニング能力,②は人間関係形成・社会形成能力,③は自己理解・自己管理能力及び課題対応能力と大きく関わりがあると考えられる。 以上の内容より,「基礎的・汎用的能力」は,それ以前に提唱された複数の「力」を参考としていること,そして,生徒にとって今後求められる極めて重要な資質・能力であることがわかる。 なお,新学習指導要領では,キャリア教育が明確に位置付けられている。例えば「生徒の発達を支える指導の充実」として,次の記述がある(12)。 生徒が,学ぶことと自己の将来とのつながりを見通る資質・能力,つまり「基礎的・汎用的能力」の育成が目指されていることがわかるであろう。 ○生徒・指導者双方への意識化 さらに言えば,「基礎的・汎用的能力」は,本研究で注目する「活動のプロセス」において発揮される力である。藤田は,教科を通したキャリア教育について,以下のように述べている(13)。 能力)と比較しつつ,「基礎的・汎用的能力」の重要性が一層鮮明となることは言うまでもないと述べている。平成30年に第一次報告書としてまとめられた「The Future of Education and Skills」に示された,今後求められる資質・能力について,藤田がまとめている内容を一部抜粋する(11)。 ①新たな価値を創造する力 急速に変化する社会においては,新しい製品・サー ビスのみならず,新たな仕事や社会モデルを他者と協 力して生み出す力が必要である。 ②緊張やジレンマの調整力 多様な立場や社会的背景をもつ人々がともに生き, 同時に,格差や不平等が広がる社会においては,短絡 的な思考を避け,競合・相反する考えが相互に影響を 与え合っているという現実に即した調整力が必要であ る。 ③責任をとる力 上記の2つの資質・能力の基盤となる力である。自 己をコントロールしつつ,自らの行動によって生じる 結果を予測し,その結果によって責任をもって説明し, 評価・検証できる力を意味する。 しながら,社会的・職業的自立に向けて必要な基盤となる資質・能力を身に付けていくことができるよう,特別活動を要としつつ各教科等の特質に応じて,キャリア教育の充実を図ること。 この記述からも,キャリア教育の充実を図る中で,社会的・職業的自立に向けて必要な基盤となそのもの,あるいは,その単元のねらいを達成するための授業展開(指導手法など)の中に,キャリア教育としての価値が潜んでいる場合に,その価値を見いだし,それを意識して指導することが「教科を通したキャリア教育」の姿です。 キャリア教育の価値(「基礎的・汎用的能力」の視点)を見いだし,それを意識して指導することが大切といえる。そして,「ねらいを達成するための授業展開(指導手法など)の中」とあるが,これは本研究でいえば「活動のプロセス」である。 今までにも,指導者側が活動のプロセスに潜む「基礎的・汎用的能力」を意識して指導するという実践は,多く積み重ねられてきた。例えば,川上は小・中学校におけるキャリア教育の授業開発に関する考察を行う中で,「教師のみが,基礎的・汎用的能力の四つの能力を理解し,題材を指導するのではなく,生徒自身に対してもその意図を明確に示し,学習活動を行わせていく必要がある」と考え,授業展開のモデルを例示している(14)。 本研究でも,生徒が活動のプロセスに注目し,「基礎的・汎用的能力」を視点として成長を実感することをねらいとすべく,生徒に対しその意図を明確に示す。生徒にも「基礎的・汎用的能力」の理解を促すような実践は多くないが,もし意識化を図ることができれば,生徒が授業を通して成長を実感する視点が増えることにつながる。また,先述のとおり「基礎的・汎用的能力」は活動のプロセスにおいて発揮される資質・能力であることから,生徒が活動の成果だけでなくプロセスに注目する機運が高まることも期待できるであろう。 以上をまとめると,本研究では生徒が活動のプロセスに注目できるよう,「基礎的・汎用的能力」を視点とした振り返りの充実を図る。そしてプロセスに注目した振り返りをまとめる中で,生徒がより多面的に成長を実感できるような姿を目指す。 中学校 キャリア教育 3 77

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