(2)本研究で重点化する資質・能力 ―「基礎的・汎用的能力」― 前項のような評価を実現するためには,振り返りが重要な役割を担うと考えられる。ただ,目標に照らした振り返りを行ったとき,特に何の意識もなければ生徒は目標を達成できた,あるいはできなかったという成果(結果)だけに注目して振り返ることが予想される。生徒が活動のプロセスに注目するためには,何を視点として振り返るか,という部分へのアプローチが必要であろう。 そこで本研究では,キャリア教育を通して育む資質・能力である「基礎的・汎用的能力」に注目する。「基礎的・汎用的能力」とは何か,そして,なぜ生徒に成長を実感させたい資質・能力として重点化するのか,順に整理しつつ論を進める。 ○「基礎的・汎用的能力」とは まず,「基礎的・汎用的能力」とはどのような能力なのかについて述べる。「基礎的・汎用的能力」が定義されたのは,平成23年1月31日に中央教育審議会が示した「今後の学校におけるキャリア教育・職業教育の在り方について(答申)」(以下,「在り方答申」)である。「在り方答申」においてキャリア教育は次のように定義されている(3)。 76 一人一人の社会的・職業的自立に向け,必要な基盤となる能力や態度を育てることを通して,キャリア発達を促す教育 この定義から,キャリア教育では一人一人の社会的・職業的自立に焦点が当てられているとわかる。そして,そのために必要な基盤となる能力や態度として提唱されたのが,次の四つの能力として整理された「基礎的・汎用的能力」である(4)。 ことが読み取れる。また,先に挙げた二つの記述を照らし合わせれば,生徒の良い点(自分のよさ)を認識・実感することの大切さが浮かび上がる。 本研究では,新学習指導要領に記述されている「自分の良い点(よさ)や可能性,進歩の状況」を,その生徒の「成長」ととらえる。生徒自身が活動の成果だけでなく,プロセスに注目して評価することにより,目標の実現に向けた活動によって得た成長をより実感できると考えられる。そうした成長の実感が,次の活動を通して更なる成長を目指す原動力となるのではないだろうか。 中学校 キャリア教育 2 ①人間関係形成・社会形成能力 ②自己理解・自己管理能力 ③課題対応能力 ④キャリアプランニング能力 これらの「基礎的・汎用的能力」について,「在り方答申」では,「分野や職種にかかわらず,社会的・職業的自立に向けて必要な基盤となる能力であると考える」としている(5)。加えて,「社会人・職業人に必要とされる基礎的な能力と現在学校教育で育成している能力との接点を確認し,これらの能力育成をキャリア教育の視点に取り込んでいくことは,学校と社会・職業との接続を考える上で意義がある」とも述べている(6)。 本稿「はじめに」において,昨年度の研究実践について触れた。多くの生徒が,上に挙げる「基礎的・汎用的能力」に結び付くような力を身に付けていきたいと考えていた。今後は学校教育との接点を確認し,それらの力が身に付いていると実感できるような実践が大切になるといえよう。 なお,「基礎的・汎用的能力」として示されている四つの能力について,拙稿(7)でまとめている箇所があり,詳しくはそちらを参照されたい。 ○「基礎的・汎用的能力」の重要性 では,本研究において,なぜ「基礎的・汎用的能力」を重点化するのか。それは,今後生徒に求められる極めて重要な資質・能力として,「基礎的・汎用的能力」が示されているからである。 先述した「在り方答申」に続いて,「キャリア発達にかかわる諸能力の育成に関する調査研究報告書」(以下,報告書)が平成23年3月に示された。報告書では,「基礎的・汎用的能力」が各界から提示されている様々な力(「人間力」「就職基礎能力」「社会人基礎力」「学士力」)を参考としつつ開発されたものであることが概要としてまとめられている(8)。そして,「本答申(「在り方答申」:引用者注)は,基礎的・汎用的能力の確実な育成をキャリア教育の中心課題としている」(9)と指摘した上で,実践に当たっては「各界で提唱された様々な能力との整合性を図りつつ,社会的・職業的自立に向けて必要な基盤となる能力であることを正しく理解する必要がある」と述べている(10)。 加えて,藤田は平成27年に立ち上げられたOECDの事業である「Education 2030」で提唱された,新たな時代に求められるコンピテンシー(資質・
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