最終稿【田中】
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第1章 主題設定の理由 はじめに 社会の変化が激しさを増している中,生徒は将来に向けてどんな力を身に付けたいと考えているのか。昨年度の研究実践において,研究協力校の生徒が記述してくれた。その内容を見ると,「読解力」「英語力」「プログラミング力」といった,日本における今日的課題ともいうべき内容を挙げている生徒が複数いたことに大変驚かされた。 これらの他に多くの生徒が記述していたのが,「相手のことを考える力」「協力」「コミュニケーション力」「計画力」「臨機応変に対応する力」といった力である。決して一般化はできないが,生徒の記述内容から二つのことを強く感じた。 一つは,多くの生徒が必要であると感じている力は,キャリア教育を通して育む「基礎的・汎用的能力」(詳しくは後述)に深く結び付いているということである。生徒へどのようにアプローチしていくかという意味においても,キャリア教育の充実が大きな鍵を握っているように思われる。 もう一つは,将来に向けて必要であると提唱されている力について,ほとんどの生徒が重要性を既に認識しているということである。学校生活を通して,そうした力を身に付けているということを生徒が実感できるような取組が大切であろう。 以上の内容は,本研究における実践と深く関わっている。生徒・指導者双方に「基礎的・汎用的能力」が意識化され,それらを視点として生徒自身が成長を実感することを通して,自分の将来と向き合う姿勢を高めてほしいと考えた。そのためには,活動の結果あるいは成果だけでなく,活動のプロセスに注目して振り返ることが重要になる。 本稿では,キャリア教育を通して育む資質・能力である「基礎的・汎用的能力」を視点としつつ,活動のプロセスに注目し,成長を実感する生徒の育成を目指すための方策,及び具体的な実践についてまとめている。また,1年次(昨年度)の研究は学校行事が中心であったが,本研究は各教科の授業を中心として実践を行った。 なお,京都市ではキャリア教育を「生き方探究教育」と呼んでいる。名称は違うが意味内容は同じであり,本稿では京都市の取組を表す部分にこの語を用いることとする。 第1節 活動のプロセスに注目する重要性 (1)新学習指導要領から 社会の変化が目まぐるしく,予測困難な時代となっている中で,どのような生徒像を思い描きつつ学校教育を進めることが求められるのだろうか。 この問いに対して,様々な答えが挙げられるだろう。その中で,本研究では,活動のプロセスに注目し,成長を実感する生徒の育成を目指していきたいと考えた。 中学校では,新学習指導要領が令和3年度より全面実施となる。その中で,「学習評価の充実」の項目の一つに,以下のような記述がある(1)。 そして,このような評価は,生徒・指導者双方にとって大切なものであるといえる。生徒にとっては学習したことの意義や価値の実感,及び学習意欲の向上に資すること,指導者にとっては指導の改善に生かすことが期待されているのである。 これに関わる内容として,新学習指導要領における別の部分では,以下のような記述がある(2)。 生徒のよい点や進歩の状況などを積極的に評価し,学習したことの意義や価値を実感できるようにすること。また,各教科等の目標の実現に向けた学習状況を把握する観点から,単元や題材など内容や時間のまとまりを見通しながら評価の場面や方法を工夫して,学習の過程や成果を評価し,指導の改善や学習意欲の向上を図り,資質・能力の育成に生かすようにすること。 学習の成果だけでなく,プロセス(過程)にも注目して評価することの重要性が示されている。その上で積極的に評価することとされているのが生徒の良い点や進歩の状況であることもわかる。 これからの学校では,(中略),一人一人の生徒が,自分のよさや可能性を認識するとともに,あらゆる他者を価値のある存在として尊重し,多様な人々と協働しながら様々な社会的変化を乗り越え,豊かな人生を切り拓き,持続可能な社会の創り手になることができるようにすることが求められる。 豊かな人生を切り拓く上で,自分のよさや可能性の認識,そして多様な他者との協働が鍵となる中学校 キャリア教育 1 75

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