最終稿【田中】
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先述した研究協力員への聞き取り調査での内容が心に残っている。「基礎的・汎用的能力」は,古くから学校教育において実践されてきた内容で,ともすれば「言わずもがな」であるのかもしれない。しかし,それらの能力を意識化して授業に臨むことが大切であると,研究を通して強く感じた。 その方策として,本研究では「基礎的・汎用的能力」の指標を提示した。生徒が「基礎的・汎用的能力」の意識化を通して,活動のプロセスに注目し,成長を実感する姿につながったことが,少しでも発信できていれば嬉しく思う。また,今回提示した指標は決してこれが完成版ではなく,改良すべき点もあると考える。是非様々な学校で取り組んでいただき,この指標をひな形として各校の工夫が加えられることにより,多くの学校に実践の輪が広がればこれに勝る喜びはない。 を達成する(達成に近づく)ことができたという内容の振り返りを実現することは難しかった。 理想の振り返りを目指すには,指標の提示とともに,指導者側がねらいとする振り返りの内容も具体的に示す必要があったと考える。記述の要点だけでなく,具体例があることで生徒への手だてとなった可能性がある。 また,本稿で記載できていない教科であるが,研究協力校の国語科教員より,一部の行動指標について表現を変えて実施することは可能か質問を受けた。この指標に示す内容が絶対でないこと,指標をひな形とし,生徒・指導者によって自由に加筆・修正し作り上げてよいこと等が留意点として挙げられる。こうした点も視野に入れ,より創意工夫された実践を蓄積する必要があるだろう。 ○振り返りの更なる充実 研究協力校ごとに,振り返りの形式が異なるものとなった。具体的には,A校では単元ごとの,B校では毎時間ごとの振り返りにおいて「基礎的・汎用的能力」の指標を活用した振り返りを行った。それぞれに意図をもって,異なる形の振り返り形式にしたことは先述したとおりである。 実践を通して,毎時間の振り返りの中では,教科目標と「基礎的・汎用的能力」との接点を具体的に記述するような生徒の姿はあまり見られなかった。「基礎的・汎用的能力」は短期的に育まれるものではないため,ある程度の期間を設定し,振り返りを行う方が効果的であるように映った。 また,本研究では「基礎的・汎用的能力」の意識化を促すことも考え,教科目標と「基礎的・汎用的能力」の振り返りを分けて設定した。先述した内容と重なるが,振り返りの理想は,そのように分けて設定しなくとも,教科目標に対する振り返りの中に「基礎的・汎用的能力」の要素が出てくることである。こうした振り返りを実現すべく,今後も継続的に取り組む必要があると考える。 (2)今後に向けて 前項で取り上げた本研究における課題を踏まえ,今後の展望を2点に分けて述べる。 ○数学科,社会科以外での授業実践 本研究において,各教科の学習で実践するキャリア教育の例示ができたと考える。1年次の研究と合わせれば,学校行事及び特定の教科において実践を積み重ねることができたといえる。 96 中学校 キャリア教育 22 今後は,特に数学科,社会科以外の教科において実践を行うことが必要である。本研究では,どちらの教科においても人間関係形成・社会形成能力及び課題対応能力を,行動指標として挙げる生徒が多かったが,他教科において違いはあるのか,そして指標の汎用性を検証できればと考える。 ○校種間連携を意識した実践 本研究では,活動のプロセスに注目し,成長を実感する生徒の育成を目指すため,「基礎的・汎用的能力」を視点とした。端的にいえば,授業を通して「付けたい力」を明確にし,生徒・指導者双方に意識化する実践であったと振り返る。 このように考えたとき,異なる校種において,どのような力を大切にして学校教育が行われてきたのか(生徒がどのように自覚しているのか),あるいは将来に向けて,どのような力を育むことが想定されているのかという内容を理解しておくことはとても大切であると考えられる。本研究では言及できなかったが,生き方探究パスポートの取組も加味し,今後は校種間連携もより視野に入れつつ研究を進めていくことが大切であろう。 最後に,本研究における実践を通して,生徒が活動のプロセスに注目し,少しでも成長を実感する姿が見られることを目指し,共に話し合いを重ね,貴重なご意見,そして実践をいただいた研究協力校の皆様に心より感謝申し上げる。 おわりに

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