最終稿【田中】
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生徒Bは,本時の課題をどのように解決していけばよいか悩んでいる様子であった。その一端が振り返りからもわかるが,項目【2】において,別のグラフであればどういった水そうになるかという新たな疑問について記述していることに注目したい。理解度はまずまずという自己評価であるものの,生徒Bが本時の内容に対する学習意欲を高めている様子としてとらえられるであろう。 授業で特に発揮した指標項目としてはC-⑥(課題に対し計画を立てて処理・解決する)を挙げており,指導者が事前に意識化した項目を生徒Bも意識していたことがわかった。先述した「図形と相似」の振り返りではA-②(自分の考えを正確に伝える)を挙げており,生徒Bが数学科の授業を通して徐々に意識化した姿があった。項目【4】の記述を見ても,人に説明できることを,自身の理解度を測る基準としている様子がわかる。 本時では,自分の考えを伝えるよりも,友だちの意見を参考にしながら課題を解決していくことが主眼となったため,生徒Bが指標項目のC-⑥を挙げ,振り返りに反映させたものと考えられる。 以上のような記述内容から,単元ごとに指標を活用した実践・振り返りを積み重ねることで,生徒に活動のプロセスにおいて発揮される視点が徐々に意識化され,それが教科目標に迫る上で大きな役割を果たす可能性が示唆された。 そして,社会科(A校),数学科(B校)での実践を通して,生徒にとって指標の影響力がとても強いことに留意し,教科目標を第一とした振り返りである点を強調することの必要性を痛感した。 なお,「いろいろな関数」の授業において,生徒が頑張れた項目として挙げた行動指標の内訳は,右段の表3-3のようになった。 図3-12 生徒Bの振り返り(いろいろな関数) 先述した「図形と相似」の授業と同様に,項目A(人間関係形成・社会形成能力)を挙げる生徒が多かった。指導者が事前に意識化した項目は,A-③(他者と協働し,意見をまとめる),C-⑥(課題に対し計画を立てて処理・解決する)の二つであったが,半分弱の生徒について,それらの項目を意識する場面があったことがうかがえた。 事前に予想していたよりも,A-①(意見の違いに注目して聴く)を挙げる生徒が多く見られた。本時では今までに学習した内容で表せない関数を取り上げたため,自身の考えと照らし合わせながら,友だちの意見に耳を傾けることが重要になっていた。指導者が指標プリントを作成する際に込めた思いである,他者と協働することの大切さを伝えるという内容は,数学科の授業を通して,生徒にある程度意識化されたのではないかと考える。 一方で,今回の授業においても,B-⑤(自分の得意な分野や方法を見つける),及びD-⑦(学校での学びと将来のつながりを認識する)を選ぶ生徒はいなかった。指導者が事前に意識化していない項目であり,生徒が特に発揮したと思う項目を自身で振り返って挙げることが大切であることから,特定の項目が挙がらなかったこと自体が悪いというわけではない。ただ,教科目標に迫るプロセスで,これらの項目を発揮するような数学科の授業はどのようなものか,考える契機になった。 これには,第3学年が対象であったことも関係しているかもしれない。推測の域を出ないが,例えば第1学年であれば,中学校数学と出会い,「自分の得意な分野が見つかった!」と感じ,指標B-⑤を挙げる生徒が出てきやすい可能性がある。 以上については今後の課題として,様々な学年や単元において実践を積み重ねたいと考えている。 表3-3 生徒が挙げた行動指標の内訳(いろいろな関数) 中学校 キャリア教育 17 項目 人数(人) 割合(%,N=20) A-① 7 35.0 A-② 3 15.0 A-③ 7 35.0 B-④ 1 5.0 B-⑤ 0 C-⑥ 2 10.0 10.0 D-⑦ 0 91 85.0 0 5.0 0 0

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