指導者が事前に意識化していた,A(人間関係形成・社会形成能力)の項目が合わせて63.6%となった。授業を通して,多くの生徒にとっても意識化する場面があったことがうかがえる。 また,それ以外の項目を挙げた生徒もいた。多かったのはC-⑥,課題対応能力である。本時の学習過程と指標に示された内容との重なりを感じ,振り返りの視点としたことが要因と考えられる。 他には,B-④,自己理解・自己管理能力を挙げる生徒もいた。その振り返りをみると,予想以上に問題が解けたという達成感を,自分の良い点や強みとして挙げている傾向があった。授業の中で得た成功体験等は,生徒にとって自己理解・自己管理能力に関わるものととらえられることが示唆された。だが同じ自己理解・自己管理能力の項目生徒Bは,課題の半分以上を自力で解き進めることができた。解けなかった部分は友だちに教えてもらい,他の友だちにも教えるという教え合いを通して,理解を深めている様子がうかがえる。 また,生徒Bはグループを代表して発表する役割を担った。発表を経験し,全体の場でわかりやすく伝えることの難しさを感じていた。発表自体に納得はしていない様子であったが,本時の授業を通して「自分の考えを正確に伝える」ことを頑張ったと振り返り,具体的に記述していた。 これら2名の生徒の記述から,「基礎的・汎用的能力」を視点とした振り返りによって,各生徒の理解度に応じて,活動のプロセスに注目し,授業で得た学びや成長,今後に向けて頑張る内容をまとめることにつながる可能性が示唆された。 なお,この授業において,生徒が頑張れた項目として挙げた行動指標の内訳は,以下の表3-2のようになった。 表3-2 生徒が挙げた行動指標の内訳(図形と相似) 項目 人数(人) 割合(%,N=44) A-① 10 22.7 A-② 7 A-③ 11 25.0 B-④ 5 B-⑤ 0 C-⑥ 10 22.7 22.7 D-⑦ 0 未記入 1 15.9 63.6 11.4 11.4 0 0 0 2.3 2.3 中学校 キャリア教育 15 であるB-⑤を挙げた生徒はおらず,本時では,生徒にとっては「自分の得意な分野や方法」よりも「自分の良い点や強み」として認識され,振り返りに反映されていたことがわかった。 加えて,D-⑦,キャリアプランニング能力を挙げる生徒もいなかった。第2章で触れたが,やはり授業の文脈において特にキャリアプランニング能力を取り上げることは,意図した学習機会でない限り難しいのではないかと感じられた。このように,指標を一つの材料として授業を振り返ることで,指導者は,生徒の授業に対するとらえ方を資質・能力ベースで把握することができ,生徒理解を更に深めたり,今後の授業計画に反映させることができたりといった効果があると考える。 しかし一方,この時点で一つの課題も見えてきた。最も大切である教科目標に対する振り返りが,まだ十分であるとはいえないことである。前ページの生徒Aは今までに学習した比を挙げ,それらの比が意味することを,問題を解く度に思い出したいと記述しているが,具体的にどのようなことを意味するのか言及できればより充実した振り返りになると考えられる。また,生徒Bについても,自分の意見を正確に伝えることや,教え合いの重要性に気付くことができてはいるが,それによって何を学んだかについては触れられていない。 今回は指標の導入も兼ねた授業であったが,次回以降は,特に振り返り項目【2】で教科目標に対する振り返りが充実するよう,教師から振り返りの目的を明示していく必要があると考えた。 このような反省を踏まえ,実践が積み重ねられた。本稿では,その中から関数の授業を取り上げ, 実践の具体を説明する。単元は「いろいろな関数」であり,本時の目標は「グラフを読み取り,条件を満たす水そうの設定を考えることができる」とした。今までに学習した内容で表せない関数を取り上げ,考察することを通して,グラフの読み取り方について理解を深めることが目標である。 指導者が事前に意識化した指標項目は,A-③(他者と協働し,意見をまとめる:人間関係形成・社会形成能力),及びC-⑥(課題に対し計画を立てて処理・解決する:課題対応能力)である。それぞれへの意識化を促すために,「今までに見たことが無いようなグラフについて考えるので,グループでどう取り組むかがとても大切です。学習してきた内容を生かして,他のグループに対しわか りやすく発表できるよう,今から取り組んでみま 89
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