86 図3-5 授業における生徒の様子(A校) 表3-1からわかるとおり,項目で一番多かったのはC-1(課題解決に向けて情報を集める),四つの能力のまとまりとしてみると最も多かったのはA(人間関係形成・社会形成能力)であった。 このような結果となった要因の一つは,授業展開にあると考える。先述のとおり,地理分野の学習は単元を貫く問いを(前半は教員が,後半は生徒自身が)立てて進められた。その問いに迫るために,例えば「世界各地の気候の違いは,それぞれの地域で人々の生活にどのような違いをあたえているのだろう」といった学習課題が毎時間設定され,授業が展開されていたのである。 生徒にとってすぐ答えの出るような課題ではないが,様々なデータ,そして友だちからの意見を参考にしつつ,自分の考えを深めていく。授業では教室内を動き,友だちから意見を聞く場面が度々設定された。図3-5はそのときの様子である。 この活動は,指導者が事前に指標と照らし合わせ,他者と協働し,意見をまとめる(指標A-3),及び課題解決に向けて情報を集める(指標C-1)ことを特に意識化し,取り入れたものである。こうした場面設定も影響して,生徒が挙げる行動指標の項目に濃淡が出たものと考える。 さらに表3-1をみると,地理分野の学習全体を通して,全ての項目に対し,発揮したことを実感した生徒がいたことがわかった。中でもキャリアプランニング能力を挙げる生徒は少なかったが,単元の最後(または最後に近い授業)でこの能力について注目する生徒がいた。学習を進めるにつれて,現在学んでいることと将来とのつながりを実感する生徒が出てきていることがうかがえた。 以上の内容から,教師があらかじめ授業展開に込めた「基礎的・汎用的能力」は,多くの生徒に伝わり,意識化されることがわかった。 加えて,生徒が「基礎的・汎用的能力」も視点として成長を確かに実感するために,毎時間の振り返りを生かしつつ,ある程度の期間を設定して定期的な振り返りも行った。実際に,ある生徒が記述した内容は以下の図3-6のとおりである。 この振り返りを行う際,指導者から「基礎的・汎用的能力」の指標を用いるように指示はしなかった。その中で,多くの生徒が指標に関わる内容を記述し,自身の成長を言語化していた。 図3-6 定期的な振り返り(A校) 図3-6の振り返りは,三つの州を学習した段階で行ったものである。四つの項目からなり,①まず他者と交流もしつつ,社会科の教科目標(単元を貫く問い)につながるようなキーワードを整理した。そして,②どのような学びがあったか,③自分の成長や課題,④今後の授業で発揮したい力について,それぞれまとめる項目を設定した。 生徒はこの振り返りを通して,単元を貫く問いに注目しつつ,学びを深めることにつながった要因を言語化することができた。図3-11の生徒は, ①でキーワードをまとめ,②で自分の意見を書くことができるようになったという「進歩の状況」(成長)をまとめている。③では今後の課題として,自分の考えをまとめることに加え,友だちの考えたことも生かせるようになりたいと記述しており,先述した授業展開が大きく影響しているものと考えられる。そして④の記述から,この生徒が社会科の授業を通して「自分の考えを正確に伝える」という「基礎的・汎用的能力」(指標A-2) の重要性に気付いていることがうかがえる。 中学校 キャリア教育 12
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