班ごとに二~四つの分類を考え,出てきた意見をまとめていた。その後代表者が発表し,全体を通しての共通点やキーワードを掴みつつ,今後に向けてどのような力が大切かクラスで共有した。 こうした活動の後,「基礎的・汎用的能力」の指標を全員に配布すると,先ほど自分たちで挙げた力との関連を踏まえつつ,真剣に指標を見る生徒の姿が見られた。最後に,今一度どのような力を今後付けていきたいか一人一人が意思決定した。 今回の授業を通して,指標の内容が生徒にとって受け身ではなく,自分事としてとらえることにつながったのではないかと考える。このようにして,指標は生徒全員に行き渡り,教室内に掲示もされた。今後展開される社会科の授業に向けて,指標を活用する準備が整ったともいえよう。 (3)指標を活用した振り返り では,社会科の実践において,どのような振り返りを行ったかについて述べる。まず,毎時間の振り返りの場面で指標を活用し,「基礎的・汎用的能力」の意識化を促すことをねらいとした。実際の振り返りは,次頁の図3-2のようなものである。 図3-2からわかるように,「C-1」「A-3」といった形式で,毎時間ごとに生徒が発揮したと考える行動指標の項目を書く欄を設けた。 第3章 実践の具体 図3-1 ある班がまとめた「つけたい力」(B校) 中学校 キャリア教育 10 84 本章では,実践の具体について述べる。研究協力校として,京都市立中学校であるA校,B校の2校にご協力いただいた。なお,A校は今年度からとなる第1学年,B校は1年次に引き続き同じ生徒となる第3学年を対象学年とした。 各教科の学習として,A校で社会科,B校で数学科の授業実践を行った。本研究では生徒・指導者双方への「基礎的・汎用的能力」の意識化をねらいとしているため,それに関わる内容を取り上げながら,両校それぞれの実践について述べる。 第1節 A校における実践 (1)指導者に意識化 A校では,第2章第2節(1)で示した「基礎的・汎用的能力」の指標(表2-1)をそのまま活用することとした。第1学年が対象ということもあり,中学校生活を通して身に付けてほしい資質・能力を一覧で提示したいという思いからである。 指導者は,指標に目を通した際,12項目の行動指標は生徒だけに当てはまるのではなく,指導者側にも自身の成長を実感するものとして発揮されるのではないかという考えをもっていた。このように,指導者側が自分事(生徒とともに成長する視点)ととらえ,指標が導入されることにより,一層指導者に意識化が促されると考えられる。 ただ,指標に挙げられた12項目について,「指標にあるから大事」という形の伝え方では生徒にとって受動的な教え込みとなり,生徒への十分な意識化が難しいと事前に予想した。そこで,生徒に指標を配布する前に,生徒自身が大切であると思う力をそれぞれで考えさせ,その内容も踏まえつつ指標を導入していくことを計画した。 (2)指標の導入(生徒に意識化) では,指標の導入にあたる授業の内容について述べる。社会科の授業のオリエンテーションとして実施したため,その後に続く授業実践を詳しく取り上げる前に,本項で説明することとする。 この授業では,学校での授業や取組を通して,どんな力を付けたいか(付けることができるか)生徒に考えさせた。個人で考える時間を取った後グループで意見を交換し,出し合った意見に見られる共通点を探り分類する活動を行った。例えば ある班では以下の図3-1のような意見が出た。 生徒の記述をみると,行動指標に関わる内容が多く出てきていることがわかる。それに対し,指導者は大事な部分に線を引いたり,「いいね!」などと肯定的に価値付けたりするコメントを返している。このようなやり取りにより,生徒が活動のプロセスに注目する大切さや,自身の成長を一層実感することにつながると考えられる。
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