最終稿【田中】
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るか事前に探り,意識化した上で授業に臨むことが大切である。そして,授業の中で指標にあるような行動が見られれば,肯定的な言葉がけにより積極的に価値付けることで,生徒にも徐々に能力が意識化されたり,その重要性を認識し今後の行動に生かしたりといった姿につながると考える。 振り返りの場面でも同じである。ただ,授業中に全員の内容を把握し,価値付けを行うことは不可能である。そこで授業後に生徒の記述に目を通し,波線を引いたりコメントを書いたりして価値付けていくことも有効であると考えられる。 留意点としては,授業後の振り返りが,「基礎的・汎用的能力」に関する内容のみにならないようにすることが挙げられる。第1章で述べたように,目指すのは教科等の目標であり,目標達成に向けたプロセスの中で発揮される「基礎的・汎用的能力」も視点として振り返るということである。すなわち,目標を達成することができた(場合によっては達成できなかった)要因について振り返る際に,生徒が注目できるようにすることが大切になる。 最後に,本項の内容を示す具体例を一つ挙げる。社会科において,ある地方の文化に影響を与えるものは何か考えを深めることを目標とする授業を計画する。この際,授業展開において班活動を設け,その中で「意見の違いに注目して聴いてほしい」というねらいがあれば,指標と照らし合わせ「人間関係形成・社会形成能力」の育成につながる内容として意識化し,授業に臨むことができる。 授業では,例えば班活動に移る前に,指導者から「○○地方の文化に影響を与えるのは何なのか,班全員の発表をもとに,考えを深めましょう」と指導する。これにより,生徒は指標の内容を直接指示されたわけではないが,「考えを深めるということは他者の意見と自分の意見の違いに注目することが大切なのでは」と,授業のポイントをつかむことにつながると考える。これが事前に意識化したことを生かした,指導者の仕掛けといえる。 生徒は実際に授業の中で,目標達成に向けて「基礎的・汎用的能力」を発揮する。指導者からの教え込みではなく,生徒が実感を伴って理解を深めていくよう指導者側が心がけることが大切である。 そして,授業後の振り返りにおいて,目標に対する振り返りを記入する。このとき,今回の授業を通して新たな学びを得ることができた要因に注目できることを目指す。例えば「意見の違いに注目して聴いたことで,地形だけでなく人口もその (17) 国立教育政策研究所生徒指導研究センター 『職業観・勤労観を育む学習プログラムの枠組み(例)』 https://www.mext. go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo10/shiryo/attach/__icsFiles/afieldfile/2009/04/07/1260173_1.pdf 2021.3.1 (18) 京都市教育委員会 『京都市生き方探究(キャリア)教育スタンダード』 https://www.city.kyoto.lg.jp/kyoiku/ cmsfiles/contents/0000217/217994/sutandard.pdf (19) 濱保和治・岡田大爾「キャリア発達を促す総合的な学習の時間の実践的な研究―中学校と大学との連携を通して―」『広島国際大学教職教室教育論叢(9)』 2017.12.20 pp.95-103 (20) 小泉令三・古川雅文・西山久子編 『キーワード キャリア教育』北大路書房 p.154 *13章(辰巳哲子著)より引用 地域の文化に影響を与えていることが分かりました」というように,指標にあるような「基礎的・汎用的能力」を発揮したことで,目標を達成する(達成に近づく)ことができたことが分かるような記述が生徒から出てくることを理想とする。 以上のようなサイクルを繰り返し行う中で,生徒が授業を通して活動のプロセスに注目し,成長を実感することができるよう実践を積み重ねる。 (3)本研究の構想 今までの内容を踏まえ,本研究の構想を以下の図2-2のように表した。 前項で具体例として挙げたような学習過程を目指し,研究を進める。生き方探究パスポートの取組は,1年を通した目標と振り返りのサイクルである。「あゆみ」で充実した振り返りが行えるよう, 本研究では特に各教科の学習を中心として実践を行う。本節で述べた「基礎的・汎用的能力」の指標及び振り返りの工夫を反映させながら,目指す生徒像に近づいていきたいと考える。 図2-2 研究構想図 中学校 キャリア教育 9 83

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