これらのことから,研究実践において,PDCAサイクルを意識した授業を繰り返し行ったことで,学習の前後の姿を比較して自分の成長に気付いたり,教科のねらいとキャリア教育のねらいの二つの視点で振り返ったことにより,多くの成長を感じることができたりした。そのことで,体育科や国語科書写において,もっと成長したいという気持ちがわき,こちらから指示がなくても,意欲的に学習に取り組む姿が見られたと考えられる。 『実践を通して指導者の意識の変容は?』 図4-5の生き方探究パスポート「あゆみ」の記述からわかるように,体育の学習をはじめ,他の教科においても教科の力を伸ばしながら,キャリア教育で付けたい力についても注目し,成長を実感し,書き残している姿が見られる。 振り返りで自分の成長を感じたり,他者から自分の成長を認めてもらったりすることを繰り返し行ったことで,自分のよさを感じ取っていたことがわかる。 研究協力員にD児の1年間の活動の様子をうかがうと,実践前は,何事にも自信がなく,失敗することを恐れていた。体育科マット運動の活動でも,最初は技に挑戦することを恐れていたが,友だちと協力して学習を進める中で,何度も挑戦している様子が見られた。この経験を生かし,他の教科でも,苦手なことに挑戦することができるようになってきた。その際,指導者も意識して,頑張りや成長を認めることで,D児は,自分の成長に気付いて,自信をもつことができるようになった。 第2節 研究協力員の聞き取り調査から 実践後,研究協力員に「キャリア教育の実践を通して,児童の変容や指導者の意識の変容はあったのか」を問う聞き取り調査を行った。その調査で聞き取ることができた内容について述べていく。 『キャリア教育の実践による児童の変容は?』 キャリア教育の実践を行ったことで,例年に比べて,体育科や国語科書写の活動に子どもたちは意欲をもって取り組んでいた。 体育科「マット運動」では,スモール・ステップのめあてを設定して達成したこと,それを周りの人から認めてもらったことで成長を実感し「もっとしたい」「はやくしたい」など,意欲を高めていた。その経験を生かし「とび箱」の学習でも,小さな成功体験の積み重ね,苦手なことにも挑戦する姿が見られた。 これらの実践の中で特に印象的だったのは,体育が苦手だったE児の意識の変容である。E児は「とび箱」が苦手であったが,「マット運動」の活動において,技ができた経験を思い出し,「もしかしたらとび箱の技もできるかもしれない」と考えて学習をスタートした。マット運動で経験した「友だちと見合ったり」「友だちのアドバイスを聞いて自分に取り入れたり」したことを生かしている様小学校 キャリア教育 19 子が見られた。とび箱でも技の習得はもちろんのこと,キャリア教育で付けたい力についても伸ばすことができていた。 『他の場面での児童の変容はないか?』 普段,国語科書写の学習では,練習をあまりせずにまとめ書きをしていたり,目標をもたずに,ただ字を書いているだけになっていたりすることが多かった。しかし,この実践を行ったことで,自分の成長に気付き,こちらから活動の指示がなくても,めあての達成に向けて練習に取り組み,意欲的に学習を進めることができていた。 キャリア教育というと,職業体験を行ったり,仕事について調べたりして,職業観を身に付けるものだと考えていた。しかし,今回の実践を通して,キャリア教育に対する意識が変わった。大きく変わったのは,職業体験や職業に関する単元だけでなく,様々な教科や生活場面で身に付けることができるということがわかった。 研究の最初に,キャリア教育で付けたい力である基礎的・汎用的能力について教えていただいた際に,私自身が各教科等で付けたい力と同じくらい付けたいと願っている力であるということがわかった。このことを知れたことで,体育科や国語科書写だけでなく,他の教科等でも実践しやすくなった。授業を計画する段階で,「今回の授業では,基礎的・汎用的能力の○○の力を付けたい」と意識して考えたり,授業の中では,「キャリアレンジャー」を使って子どもに意識させたりすることができた。 また,実践を通して,子どもの成長を認める私自身の視点が増えた。これまでは,教科のねらいに対して「できた」「できていない」と評価し,声71
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