104 ではないということである。場合によってはテスト問題が方法的な知識を習得するためのものであったり,授業での活動が方法的な知識を発揮するためのものであったりすることがある。 以下,生徒が方法的な知識を習得するための手だてと,方法的な知識を発揮するための手だてについて述べる。 第1節 方法的な知識の習得を促すために (1) 比べて共通性を見いだす 比べるという考え方は,新学習指導要領においても校種や教科領域を問わず用いられる考え方である。共通点や相違点を見つける際に有効で,大人になっても汎用性の高い考え方である。この点をとっても,比べることを意図的に授業での活動やテスト問題に位置付けることで,学習していることは社会でも役に立つという意識に働きかけることができそうである。しかし,比べることを学習活動や問題に位置付ける主たる理由は他にある。方法的な知識は,複数の内容的な知識を比べた共通性の中に見いだすことができる場合があると考えるためである。暑い地域と寒い地域のくらしの学習を例に説明する。 暑い地域のくらしの学習では,伝統的な住居には高床が多く,それは風通しを良くすることで高温多雨による湿度や浸水被害などから守る工夫であることを学ぶ。また,別の寒い地域(シベリア)の暮らしの学習でも同様に,高床の家屋があることを知り,それは温かい住居内の熱が永久凍土に伝わることで,住居が傾くことを防ぐ工夫であることを学ぶ。暑い地域でも寒い地域でも高床の住居が見られるものの,その理由は異なるということである。この時点で生徒が習得するのは「暑い地域に高床住居がある理由はこうだ。寒い地域に高床住居が見られる理由はこうだ」という知識である。この知識を他の事象や実生活に当てはめて考えることができる生徒は少ないように思われる。そうした意味では,それぞれの地域で高床の家屋が見られる理由は,それぞれ単体では内容的な知識である。 では,単体では内容的な知識である二つの理由を比べて共通性を見いだすと,どのような知識の習得につながるのだろうか。それは「どちらも自中学校 教科指導 6 然環境(気候)が関係している」という知識であり,もう一段掘り下げていくと,「どちらの地域の高床も,自然環境を克服しようとする営みである」という知識の習得につながる。これらの知識は,乾燥地域や温暖地域の暮らし,各地の人々の暮らしを読み解く際の,一つの手がかりや見方となる方法的な知識である。さらに,この知識は別の事象とも結び付いて「人々の生活には,自然環境を克服するだけでなく,自然環境を利用する営みもある」という,より汎用性の高い方法的な知識の習得にもつながっていく。 以上の理由から,内容的な知識を比べて方法的な知識を見いだすという学習活動や問題を授業やテストの中に位置付ける。 (2)関連付けてつなぐ 方法的な知識は,複数の内容的な知識を比べるという考え方だけでなく,関連付けるという考え方によって見いだすことができる場合もある。 内容的な知識が単元の中で関連付いたり,単元を越えて関連付いたりしながら,方法的な知識が習得されていくイメージは,第1章第2節(2)で説明した図1-2のとおりである。ただ,何と何をどのように関連付ければいいのか,指導者にとっても生徒にとっても難しさがある。 指導者にとって難しいのは,どの単元の,どの知識同士を比べたり関連付けたりすれば,どのような方法的な知識の習得につなげることができるかというところである。指導者が単元や授業を構想する際の手だてとして,次ページに掲載している授業構想シート(図2-2)を作成した。該当単元にはどのような内容的な知識があるかを,単語や短文で示している。また,それらの内容的な知識からどのような方法的な知識につなげることが可能かを示し,さらに他の単元や分野の,どの学習内容に結び付けやすいのかも例示している。 生徒にとっては,内容的な知識を関連付けて方法的な知識を見いだすという以前に,関連付けるという行為そのものに難しさがある。どのような内容的な知識同士を関連付けるのか,なぜそれらは関連付くと考えるのか,訓練が必要であると考える。そこで方法的な知識の習得にまで至らずとも,既有の内容的な知識をウェビングマップで関連付ける学習活動を授業の中に位置付ける。
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