最終稿【藤本】
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深い学びの鍵として「見方・考え方」を働かせること 学生は小学生(4~6年生)と比べて「新しいことを知ることが嬉しいから」とか「普段の生活に役立つから」というような,内発的動機付けで勉強する割合が低くなる結果(8)が示されている。その一方で,中学生が勉強に向かう理由は「将来いい高校や大学に入りたい」「友だちに負けたくない」などの割合が高くなっていく。 同調査では,児童生徒の勉強する動機付けと,勉強に対する意識(学習観)の関係を明らかにしている。そこでは,内発的動機付けが高い小学生ほど,勉強する際,学習の意味理解(なぜ,どうして)や思考過程(解き方)を重視し,内発的動機付けが低くなる中学生ほど,学習の結果(点数,正解・不正解)を重要視する傾向にあることが報告(9)されている。 勉強に向かう動機の違いは,学習プロセスや学習観と相関関係があるのである。点数や合格に直結する正解が大切だという学習観と,答えに至るまでの過程が大切だという学習観を二項対立的に比べることはできない。しかし,そもそも解のない未来社会を見据えた新学習指導要領が求める資質・能力は,後者の学習観に軸足を置いていることは明らかである。 動機付けが重要であることは,論点整理においても指摘(10)されている。中央教育審議会特別部会は,その重要性を裏付ける根拠に,以下の図1-1を補足資料(11)として示している。 図1-1 動機づけと学習プロセス,成果の関係 注1) 教育課程特別部会 論点整理 補足資料P197から 筆者が一部を抜粋している。 が重要になること。各教科等の「見方・考え方」は,「どのような視点で物事をとらえ,どのような考え方で 思考していくのか」というその教科等ならではの物事を 捉える視点や考え方である。各教科等を学ぶ本質的な意 義の中核をなすものであり,教科等の学習と社会をつな ぐものであることから,児童生徒が学習や人生において 「見方・考え方」を自在に働かせることができるように することにこそ,教師の専門性が発揮されることが求め られること。 中学校 教科指導 3 この補足資料では,課題の完了そのものへの関心や失敗に対する不安といった外発的動機付けは,丸暗記という学習プロセスに結び付きやすく,その結果,学びの成果は表面的理解にとどまる可能性があることが示されている。 生徒が社会と自らの関わりの中に学ぶ意味を見いだすことは,内発的な動機による学習につながる。それは生徒の学習観や学習プロセス,成果にも関連する点において重要であるといえよう。 第2節 学ぶ意味を見いだせるようにするために 授業やテストを通じて,どんなことができるようになれば,「勉強していることは社会でも役に立つ」という意識が児童生徒の中に醸成されていくのだろうか。 次に示す仮説をもとに研究を進める。 授業やテストを通して,見方・考え方や生きて働く知識を習得したり,それらを他の問題解決のために発揮したりする学習活動を繰り返し行うことで,学習していることは社会でも役に立つという意識を高めることができるのではないか。 学んでいることは社会に出ても役に立つという実感をもてるようにするために,なぜ見方・考え方と生きて働く知識に焦点を当てるのか,その意図や留意点について以下に述べる。 (1) 見方・考え方を発揮できるようにする 新学習指導要領では,目指す資質・能力を高めていくために,「主体的・対話的で深い学び」の実現に向けた授業改善を進めることが求められている。その際の留意点の一つとして,総則編の解説では,次の記載(12)がある。 101

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