100 表1-1 全国学力・学習状況調査児童生徒質問紙調査結果比較 小学校 中学校 小学校 中学校 Q1の結果を見ると,小中間での数字の開きが小さくなってきている。また2016年の小学校のデータ(26.0)と2019年の中学校のデータ(27.3)は,一部の転出入等を除けば,ほぼ同一の調査対象によるものである。学齢が上がるとともに,数字も順調に推移している。これは教え込み型や注入型などの言葉で評された授業の在り方が,少しずつ変わってきている成果と言える。 一方で,Q2の結果は,経年で見ると改善傾向にあるものの,小中間では相当の違いがある。またQ1同様,2016年の小学校(63.2)と2019年の中学校のデータ(46.1)を比べると,学齢が上がると数字は下がっている。 授業形態は少しずつ変わってきており,生徒はこれまで以上に自分の考えの広がりや深まりは自覚できてきている。しかしそのことが社会に出ても役立つという実感に結び付くどころか,低下してしまっているのである。 勉強の目的や価値が変わることは,学習に向かう動機にも関わる点で無視することのできない課題である。 学習していることが社会に出ても役立つという意識が中学生になると低下する理由は,因果関係を示すことはできないにしても,いくつか想像できる。そもそも授業を通して得たことが,生活の場で生かせるだけのものでない可能性があるだろう。たとえ本質的にはつながりのあるものだとしても,中学校では学習内容がより専門的・抽象的になる。そのことで,学習したことと実生活でのつながりや使える場面が見えにくく,自覚するまでに至っていないことも考えられる。また,義務教育の出口にある受験の存在も,勉強が社会に出Q1:話し合う活動を通して,自分の考えを広げたり深めた りすることができていますか。 Q2:学習したことは,将来,社会に出たときに役立つと 思いますか。 注1)数値は,質問に対してもっとも肯定的な回答の割合。 注2)Q2の数値は国語・算数(数学)の平均値。 2016 2019 26.0 30.3 19.3 27.6 2016 2019 63.2 69.5 41.4 46.1 たときに役立つという意識の低下に作用していると考えられる。受験の存在によって,勉強は成績やテストの得点に強く紐付けられる。その結果,小学校の頃に抱いていた「勉強は社会に出たときに役立つもの」という意識は,中学生になると,来週のテスト,来年の受験のためのものという,社会に出るための短期的な目標達成の手段として価値付けられていくことが想像できる。 なお,ベネッセ総合教育研究所は,受験の存在と指導者の指導観との関わりについて経年調査(6)を行っている。その調査報告の抜粋が以下である。 この報告内容は,受験の存在が生徒だけでなく指導者の指導観にも影響を与えており,小学校教員より中学校教員の方がその影響を強く受けていることを示すものである。 授業形態が変わってきており,授業を通して自分の考えが広がったり,深まったりした実感を生徒がもっている。しかし,そのことが社会で生きていく,生かしていくことには結び付いていない。それは,受験の存在が生徒のみならず,指導者の指導観にも影響を与え,授業形態は変われど授業で培っている力やテストで見取ろうとしている力は,これまでと本質的に変わっていない可能性があると考えられる。 生徒たちに学ぶ意味を問うためには,今一度,授業で付けたい力は何か,そのための授業の在り方やそれを見取るための一つのツールであるテストの在り方を見直す必要がありそうである。 (3)勉強の動機付けと学習観,学習プロセス, 成果との関係より 学んでいることが社会で役立つという認識をもちながら学習に向かう場合と,例えばテストや受験で得点をとることに役立つという認識で学習に向かう場合とでは,どんな違いを生むのだろうか。 ベネッセ総合教育研究所は,2014年に小中学生の学びに関する実態調査(7)を行っている。それによると,勉強する理由(動機付け)について,中「受験に役立つ力を学校の授業でも身につけさせること」が,小学校教員は98年調査以来,ずっと増え続けている。今回(16年)は10年に比べ,さらに6.1ポイント増加し,30.7%となった。中学校では10年調査の時にすでに86.2%の回答だったが,今回は約9割となった。小・中学校教員が受験に役立つ力をつけさせることを意識し,学習指導を行う傾向がますます強まっていることがわかった。 文中の(16年)は筆者による加筆 中学校 教科指導 2
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