最終稿【藤本】
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検証するという学習活動の主たる目的を,予想の正誤を判断することにおくのではなく,正誤を判断する過程で,生徒が記述しているような力を付けることにおくことが大切ではないかということである。 (16) 佐伯胖『「わかり方」の探究 思索と行動の原点』小学館 122 な力がついたと思いますか」 も考えられる。活動時間の制約もある。また生徒のどんな意見であれ,例えば間違いだと結論付けることで,生徒の気持ちを傷つけてしまうのではないかという不安もあるかもしれない。 次に示す図4-4は,12月に行ったアンケートで「これまでの学習でどんな力がついたと思いますか」に対する,ある生徒の回答である。生徒の記述が指導者の困りを解消するヒントになると考える。 図4-4 生徒の事後アンケート「これまでの学習でどん そう考えると,指導者は,生徒の予想の正解・不正解ではなく,検証の思考過程を価値付けることに重点をおくことになる。 予想を「正解である」「不正解である」「正解・不正解を判断できるだけの情報がない」と生徒が結論付けているのは,どの資料のどんな情報を予想と結び付けようとしているのか,なぜその情報と予想が結び付くと考えているのかを見取り,価値付けていくのである。その際,事実と判断,因果関係,相関関係,多面性など,考え方の見えるーペがあれば,第4章第1節(2)で紹介した指導者の声に応えることにもなるかもしれない。 なお,授業内容によっては一定の見方や答えを生徒たちにとらえさせたい場合もある。そのような場合は,指導者が予め関連する資料などを準備しておき,必要に応じて提示すればよいと考え,次年度の研究につなげていきたい。 (15) 国立教育政策研究所 研究紹介・研究成果『資質・能力を育成する教育課程の在り方に関する研究報告書1~使って育てて21世紀を生き抜くための資質・能力~』2015.3 https://www.nier.go.jp/05_kenkyu_seika/pdf_seika/h28a/syocyu-1-1_a.pdf 2021.3.1 中学校 教科指導 24 臨時休校という未知の状況が長く続いた今年度,学校の存在意義や授業の意味を改めて自問自答された教職員の方も多かったのではないだろうか。 研究の骨格を思案していたのも,そんな禍中であった。 本研究は,先例が通用しない社会の中にあっても児童生徒が将来を豊かに生きていけるようにするために,授業を通して身に付けておくべき資質・能力は何なのか,今一度,指導者自身が見つめ直し,これまでの指導の在り方を問い直そうというものである。 研究はまだまだ道半ばであるが,それでも本研究の一端が指導に役立てば幸いである。 また本研究では,学んだことが社会でも役立てられそうだという実感をもつことを通して,主体的に学びに向かう生徒の姿を目指した。 しかし実用的に使えること,汎用性の高いことだけに学ぶ価値や意味があるのだろうか。決してそうではない。佐伯は著書(16)の中で,次のように表現している。 「何のためでもなく,誰のためでもない,ただそのことが知りたい,分かりたいということがあることを,どこかで誰かから学んでいなければ,その人の学びは貧弱な段階でストップしてしまう」。 指導者である私たちは,このことを肝に銘じて授業を行う必要があることを,最後に付け加えておきたい。 日常的に多忙なことに加えて,コロナ禍にあったにもかかわらず,本研究にご協力いただいた京都市立北野中学校と京都市立下京中学校の校長先生をはじめ,戸惑いながらも実践を重ね,たくさんの気付きを提供してくださった研究協力員の先生方,いつも温かく迎えてくださった両校の教職員の皆様,そして頭の中に汗をかきながら授業に臨んでくれた生徒たちに,心から感謝の意を表したい。 2004.7 P80 おわりに

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