・方法知は内容をより深く学ぶことに使えますし,そ でも役立つという意識が生徒の中に醸成されつつあることも感じることができた。 しかし本当に力が高まったかどうかの見取りについては,第1章第1節(3)で勉強の動機付けと学習観,学習プロセス,成果との関係を説明したとはいえ課題が残る。 本研究では方法的な知識の習得や発揮に関するテスト問題についても論じてきた。しかしそれは,力を見取るためのツールというよりも,生徒の意識の変容を促すためのツールとしての機能を重視するものであった。力を見取るためのペーパーテストの在り方は継続して研究を進めていくが,ペーパーテストの性質上,資質・能力の見取りについて限界もある。今後はパフォーマンス課題やポートフォリオを用いた見取りなど,多面的に生徒の資質・能力の変容をとらえていく必要があると感じている。 (2)内容的な知識の習得について 実践を通して確認できた「覚える社会科から使える社会科へ」の生徒の意識の変容は,内容的な知識の習得を促すための手だて次第では逆戻りする可能性がある。手だてについて慎重に検討する必要がある。 本研究では「内容的な知識の習得のための学習活動」を取り立てて位置付けていない。それは,個別の情報を関連付けることが内容的な知識の精緻化を促したり,既有知識と比べることが内容的な知識の反復学習になったり,予想を検証する際に行われる情報の取捨選択が内容的な知識の定着につながると考えるからである。 新学習指導要領告示前の平成27年3月に,国立教育政策研究所がまとめた研究報告書には次のような記載(15)がある。 第4章第1節(1)で,実践で使用した見えるーぺによって内容的な知識も覚えやすくなったという生徒がいたことを紹介した。方法的な知識を単純化した見えるーぺが,個別の内容的な知識を関連付け・いわゆる「内容知」と「方法知」とを分けて考える と,資質・能力は, 内容についての「学び方」や 「考え方」に関するものですから,「方法知」に近 いものだと言えます。 うすることで方法知自体も育てられます。このらせ ん的深化 が,資質・能力教育の一つの目標です。 (一部抜粋) 中学校 教科指導 23 たり意味付けたりする要となり,内容的な知識の精緻化が促され,結果,内容的な知識を「覚える」手助けになった可能性も考えられる。内容的な知識の習得にも役立ったという生徒の声が,報告書の記載のように,方法的な知識の習得・発揮を繰り返した今回の実践によるものなのかは定かでない。しかし今回の実践となんらかの相関関係があるとすれば,あえて内容的な知識の習得と方法的な知識の習得・発揮を分けて考えるような新たな手だてを講じる必要はないのかもしれない。ただ,実践を行った指導者が生徒たちの内容的な知識の定着に不安を感じるということは,現状ではその手応えは感じられていないということである。 A校では,アプリケーションソフトを使用して,内容的な知識を一問一答形式で予習・復習する実践を試みた。実践後のアンケートでは,およそ8割の生徒がGIGA端末を使用したこうした活動を,予習か復習かのどちらかではなく,いつでも自由に自分が選択して行いたいと答えている。 方法的な知識の習得と発揮を軸にした授業を展開しつつ,生徒たちが自分の必要に応じて内容的な知識を習得できる環境を整えていければ,「使える社会科」という生徒の意識を低下させることなく,「とはいえ内容的な知識を習得させておかないと…」という指導者の不安も解消できる可能性があると考えている。 (3)予想を検証する際の指導について 予想するという活動を授業に位置付けた意図は,生徒たちに方法的な知識の発揮を促し,無意識に発揮していると思われる方法的な知識を指導者が価値付けて,その意識化を目指すことである。 予想の結果よりも予想の際の思考過程に力点を置いて実践を重ねたのはそのためである。予想した以上,授業では既有知識や生活経験,諸資料を根拠にした検証場面が必要になる。 第4章第1節(2)中の課題2で記したとおり,指導者の困りは拡散している予想を検証することころにあった。 目標から離れる突拍子もない予想が生徒から述べられることもある。たとえどのような予想が生まれそうか見当が付いたとしても,それを裏付けるだけの資料を中学生が理解できるだけのものに加工して全て準備しておくことは難しい。生徒が根拠を見つけるにしても,中学生の教科書や資料集に掲載されている内容には限りがあったり,検証するに足る既有知識が不足していたりすること121
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