118 以前に,教科書を教えるのか教科書で教えるのかという話を聞いたことがあった。そのときは,言いたいことは何となく分かったつもりでいて,教科書で教えるという方が何となく目指したいなとは思ったことはあったが,具体的に授業をどうすればいいのかなどは分からないままだった。 今回の研究に当てはめると,教科書を教えるのが 内容的な知識の習得であって,教科書で教えるのが 方法的な知識の習得と発揮になると自分の中で整理した。これまでの自分の授業やテストイメージ,特にテストは,先生(筆者のこと)が最初の方の打ち合わせでテスト問題の例を持って来られたときにも感じていたが,自分のテストは思いっきり内容的な知識に偏っていて,覚えていればできるものばかりだと思った。どんな力を付けてきて,何を見取ろうとしてきたのか振り返るきっかけになった。 実践を進めていくと,自分の中で,間違っているかもしれないが,どちらかというと方法的な知識は,最近よく言われる資質・能力のイメージにピッタリあうようになった。だから,教科書を教えるのは知識で, 教科書で教えるのは資質・能力というイメージをもつ ことができた。今回の実践で,そうした力を付けるに はどんな授業をすればいいのか,まだまだ分かってい ないことはあるが,その具体も少しはわかってきたよ うな気がしている。 るのが難しい中学生であっても,質問項目①と②の結果の差は小さくなるはずである。 社会科は方法的な知識を学ぶ教科であると認識する生徒の中に,役立つのは内容的な知識であると認識している生徒がいるということ。この事実を「社会科は内容的な知識の習得だけでなく,方法的な知識を習得したり,発揮したりする教科だとはわかってきたよ。でも自分にはまだ,それを発揮する力が付いたといえるまでの実感はないから」という生徒の声ととらえ,更なる働きかけを検討していく必要がある。 (2)指導者の意識と指導の側面から 実践中や実践事後に交わした指導者との対話や聞き取りをもとに,指導者側から見た成果と課題について順にまとめる。 成果1:自分の指導を問い直す教師の姿 「実践を通して指導の中で何か変わったことがあったか」と尋ねた際の指導者の言葉は,次のとおりである。 今回の研究で難しかったけれども,やりがいというか,手応えを感じたのは,生徒の思考結果ではなく,思考過程を価値付けてあげるというところだった。 これまで,「すごいなぁ,そんなこと考えられるようになったんだ」というような即時評価はよくしてきたけれど,評価してきた“そんなこと”自体が思考の結果だったと思う。思考過程の価値付けは難しいけれど,あの虫眼鏡(見えるーぺ)は使えるし,事後アンケートにもたくさんの生徒が書いていたように,考えを整理するようになったり,人の意見をよく聞くようになったり,あれを使うようになって,何か説明するときの語彙が増えたような気がする。欲を言えば,あれは“見方”の視覚化だが,“比べる”とか“つなげる”とか,考え方の虫眼鏡があればいいと思う。 中学校 教科指導 20 生徒たちが,学ぶ意味を社会との接点に見いだすことができるようにするには,指導者の意識の変容が出発点になる。実践を通じて,自らのこれまでの指導は何を目指してやってきたのか,その結果,生徒が何を学び,どんな力を付けてきたのかについて,指導者が自省していることに本研究の成果があると感じている。“その具体も少しは分かってきたように…”とあるように,今後,その具体的方策をより明確にしていきたい。 成果2:思考過程を価値付けることの手応え 以下も同様に,指導者の声である。 方法的な知識の習得や発揮を促すためには,思考の過程を価値付けていくことが重要であるという認識は,実践当初から指導者との間で共通理解していた。しかし会話の中に出てくる虫眼鏡こと,見えるーぺは研究当初から準備していた教具ではなく,実践を進める中で,どうしても生徒たちの思考結果に意識がいきがちになる指導者の姿や,即時に思考過程を価値付けようとするけれどうまくいかない難しさに苦心する指導者の声から生まれたものである。 指導者の意識が内容的な知識の習得から方法的な知識の習得・発揮にシフトすることを促したところにも,見えるーぺの価値が感じられた。“もの”だけが残っていく心配もあり,「方法的な知識の習得と発揮のために思考過程を価値付ける」というねらいを忘れてはならないが,「考え方の虫眼鏡」とあるように,次年度も,学習していることは社会でも役に立つという意識を醸成することにつながるものを提案できればと思う。
元のページ ../index.html#22