最終稿【藤本】
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ウ:本当に正解は一つしかないのか,世の中でも考える 図3-8 テスト後の振り返り 次ページの図3-9は,関東地方の範囲から出題したテスト問題である。先述のように実践では,見えるーぺを用いながら,生徒たちの考えが生み出された思考過程の価値付けを繰り返していた。 同じ関東地方のまとめでも,花子さんと太郎さんのまとめに違いが見られるのは,働かせてい る方法的な知識(見方)が違うためであるということを理解できているのか問う問題である。 既有の内容的な知識を,関連付けられた文脈の中に位置付けることができるかどうか,あるいはもっている知識が意味付いたものになっているかを見取る問題である。関連付けるという考え方を理解していなければできないという意味では,方法的な知識の習得に分類することもできる。ただ,いくら関連付けるという考え方を理解していても,内容的な知識を単純に再生する問題ではないとはいえ,個別の知識をもっていることが正解への大きな条件になるという意味では,やはり内容的な知識を問う問題である。 イ:九州に限らず,火山のある地域では同じような事象 が見られるかもしれないという,他の事象をとらえ る際に役立つ方法的な知識になるということ ・異なる事象を比べて共通性を見いだすだけでなく,異な ・ワークシートが“九州地方は”“東海地方は”という 固有名詞に続くかたちで表現する型ではなく,“農業は” というように,一般名詞に続く型にしていれば,より方 法的な知識の習得につながる可能性があること る事象を統合することも方法的な知識の習得につながる 可能性があること 図3-7 内容的な知識を関連付ける問題(九州地方) ア:用語や語句といった内容的な知識を単純に覚えて いるだけでは役に立ちにくいということ というように一般名詞を主語に用いる。そうすれば生徒が習得する知識は,農業は自然環境を生かしたり,補ったり(克服)する中で営まれ,気候や地形,交通網や需要,技術という要素から構成されているという方法的な知識に,より近づくのではないかという気付きを得ることができた。 本実践後の考察として,指導者との間で以下の2点を確認した。 内容的な知識を関連付けることに関して,テストでは次の問題(図3-7)を作成し実施した。 関連付けるという考え方の理解を促すほかに,この問題を通して,指導者が生徒に働きかけたかったメッセージは次の3点である。 イに関しては,問題のリード文を「九州で学習したことをまとめたウェビングでまとめたものである」にはせず,「火山の存在がもたらす影響として」というように一般的な共通性を含んだ表現にしている。これと関連して,ウェビングマップに「阿蘇山」という限定的な固有名詞を用いず,「火山」という一般名詞を用いている。 ウに関しては,空欄Aには温泉やカルデラ,空欄Bには地熱発電やマグマなど,考えられる正解は複数ある。 いずれの工夫にも,テスト問題を通じて方法的な知識の習得を促したり,覚えるから使えるという意識の醸成を促したりしようとする指導者の意図が感じられる。下の二つの記述は,テスト後の生徒たちの振り返りである。 それぞれのXチャートの真ん中に貼られる見えるーぺが違うことを理解できているかという点で,この問題は方法的な知識の習得に分類される。 1年次の本研究において,こうした問題をテストに出題する主たる目的は,社会科に対する生徒の意識に働きかけることにある。覚えるという意識から使えるという意識への変化と,方法的な知 識の習得に関する問題正答率との間に相関関係があるかどうかを示すものにはならないが,受験した2年生の通過率は8割を上回った。 問題中のテキストの読み取り不足に起因する不正解者がどれだけいるかわからないので,はっきりしたことはいえないが,授業でこだわっている一つの方法的な知識(見方)が習得されつつあることが感じられる。 必要があること 中学校 教科指導 13 111

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